映画ガタカ化する世界

映画ガタカのパッケージ

ガタカは2011年にNASAによって選ばれた「もっとも現実的なSF映画ランキング」で第一位に輝いた映画です。公開は1997年。(ちなみに現実的じゃない映画NO1は「2012」)

タイトルはアルファベットにするとGATTACA。核酸を構成する主要塩基であるグアニン(G)、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)を表すアルファベットがタイトルに使われています。こんなオシャレなタイトルにするものだから、ネットで調べると、ガガタとか、タガタとか並べ替え方を間違えて覚えてしまっている方も散見されました。

ボクがこの映画を初めてみたのは大学生だったときで、一緒に観た人は爆睡していたのをよく覚えているのですが、今改めて評判を調べてみるとかなり好評価でちょっとビックリ。一般受けするタイプの映画ではないかなーと思っています。いや、もちろん名作なのですが。

若きジュードロウ、イーサンホークのかっこよさと、凛とした音楽の美しさを堪能するだけでも十分におつりが来ますし、遺伝子とか興味ないという方でも一見の価値あり、とさせてください。

で、この記事では、現代はどのくらいこのガタカの世界に近づいているのかということを映画観直しついでに私なりに見てみたいと思います。文章力がないせいで長くなってしまったので、あんま映画に興味がない方はあらすじはすっ飛ばしてください。

 

ガタカのあらすじ(ネタバレあり)

キャッチコピーは「残酷なまでに美しい未来・・・愛だけでは君に届かない」

この「残酷なまでに美しい未来」とは、遺伝子操作・検査によって純粋な能力数値でヒトが判断される世界のことを指します。ガタカ(GATTACA)の世界の中でヒトは生まれる前から選別され、優秀でないものは生まれてくることすらなくなっている世界が舞台です。

ビンセント誕生

主人公のビンセントは両親のカーセックスによって愛の結晶として生まれましたが、出生数秒後、流れ作業のように行われた遺伝子検査において、心臓疾患のリスク99%、寿命は30.2歳、と死因と推定寿命が判明します。切り傷で一大事に発展する恐れもあるため「学校側では責任をとりかねます」と保育園(?)への入学も断られる残酷なまでに美しい世界。両親が幸せに愛を育んでいる姿を映している映像の最中に「愛の結晶として生まれてくる子供は幸せ?昔の話だ」というビンセントのナレーションが響きます。

受精卵を見つめる医師

両親は次の子供、つまりビンセントの弟を遺伝子操作で生むことを決断します。体外受精した中でも特に優秀な男女1組ずつ受精卵を選別し、そこから男か女かを選び、その受精卵から遺伝性疾病の要因を排除され、髪の色、目の色、白い肌などが希望通りに、さらに若はげや近眼、酒やその他の依存症、暴力性などの一般的にいう有害な要素を排除された「傑作」の弟、それがアントンです。「ハンデは無用、性格的な欠点だけで十分です」、「(安心してください、遺伝子操作をしても)お2人の子供です」という医師の言葉。

ビンセントとアントンの身長差

遺伝子という情報が示す通りに、ビンセントは何をやってもアントンに勝つことが出来ません。身長もすぐに抜かされました。2人は成長してから時々勝負をしました。海で地平線から遠ざかるように延々と泳ぎ続け、先に引き返したほうが負けという度胸勝負です。やはり、ビンセントはアントンに勝てませんでした。体力値で弟のアントンのほうが勝っているから、です。

勉強をするヴィンセント

不適正の烙印を押されていてもビンセントには夢がありました。「宇宙飛行士になる」 という夢です。現代においても、健康さ、知力、体力、といったものの象徴のような職業です。「僕なら簡単になれる」という弟アントンの言葉。「その心臓で受かるはずがない」「お前の能力には限りがある」「宇宙飛行士にはなれない」という両親の言葉。実際、「履歴書はウソをつけても、細胞はウソをつかない」、ビンセントは遺伝子検査で引っかかってしまい、宇宙飛行士にはなれませんでした。この世界でも法的に遺伝子による差別は禁止されているのですが、法的な制約は大した力を持たないとのこと。

失意のビンセントは再びアントンに度胸試しの勝負を挑みます。がむしゃらに泳ぎ続けました。

度胸試し

そして、その日、奇跡が起きました。先を泳ぐビンセントの名前を呼び、溺れるアントン。ビンセントは初めて弟アントンに勝ったのです。再び希望を持ったビンセントは、その後、家族の元から姿を消し、清掃員などの職を転々としながら宇宙飛行士になるために諦めずに努力を続けます。

努力するヴィンセント

しかし、どんなに努力しても立ちふさがる血液検査という壁。そのとき彼はDNAブローカーという人たちの噂を耳にします。エリートが何らかの理由で悲運な事故などにあったとき、エリートたちの遺伝子(血液や毛髪など)は高額で取引される、その仲介人がいるという噂です。思い立ったビンセントはDNAブローカーとコンタクトを取ります。ブローカーに「引き返せないぞ?」と脅されても宇宙への決意を力強く表明するビンセント。そして紹介されたのがジェローム・モローという脚が動かなくなってしまった水泳界の元ヒーローでした。

ジェローム登場 ジェロームは適正者でまさに完璧な人間。彼の遺伝子を使い、彼に成り代われば宇宙へ行くことができる・・・。「全然似ていない」と訴えるビンセントに「他人の外見なんて誰も見ていない」と反論するDNAブローカー。こうして契約を結び、エリートであるジェロームとなったビンセント。宇宙へと人を送り込む会社「ガタカ」への入社試験を受け、ジェロームからの血液や尿の提供のおかげで無事に試験を突破し、宇宙へ向かう切符を手にすることが出来るのですが・・・。

 

現代の遺伝子検査、ガタカ化する世界

映画が公開されたのは1997年で、その当時はヒトのゲノムの配列を全て解読するというヒトゲノム計画もまだ完了していませんでした。完了したのは2003年、映画が公開されてから6年後のことです。

完了はしたものの、アルファベットを読めたところで単語の意味がわからなければダメなのと同じように、現代でも疾患や能力のメカニズムなどはまだわからないことだらけです。もちろん、2003年に完了してから10年という月日が流れて、遺伝子疾患に関与する5000を越えるメカニズムが判明するなど、徐々に意味がわかり始めているものもあるのですが、医療に応用するのに試行錯誤を積み重ねている状態だといえると思います。

で、「メカニズムが判明してきた部分」に関して言えば、ガタカの世界で遺伝子によって病気のリスクや能力などが判明していたのと同様に現代でも遺伝子によって「病気になる可能性の大小や能力の優劣を、家庭で手軽に調べることが出来る環境」は日本も含め、徐々に浸透してきています。そして、遺伝子操作の話題が一般人の耳にもごく自然に響いてくる。これってまさに、ガタカの世界へと徐々に近づいていると言えるでしょう。

特に、世界経済をリードする2つの国でガタカ化(すいません舌を噛みそうな造語です)の動きが顕著だと思っています。

中国とアメリカ、です。

 

ガタカ化1:中国の赤ん坊の能力開発用の遺伝子検査

上海バイオチップコーポレーションのHP

中国は、一人っ子政策の影響だけだと言い切れはしないように思いますが、とにもかくにも、自分の子供は出来る限り優秀な子を、効率的な教育を、という方針が国家プロジェクトで進んでいる国です。国の支援を受けて作られた「上海生物芯片有限公司(上海バイオチップコーポレーション)」という会社の遺伝子検査キットは日本でも代理店を通じて多く販売されています(※)。実際、日本の民放テレビでも結構取り上げられているようです。

例えば、gn23.comとかこども能力発見DNAテストです。2つとも代理店同士で競わないように、魅せ方は少し変えていますが検査項目も価格も同じ内容だと思います。

日本で現在販売されている遺伝子検査キットだと、成人が自らの意思で病気のリスクを推定するもの(これも十分にガタカの世界を彷彿とさせる)がほとんどなのに対して、上海生物芯片有限公司の遺伝子検査キットの特徴は、赤ん坊が自らの意思ではないところで大人に能力値を計られる検査であることです。病気のリスクとかではなく、赤ん坊のIQやEQなどの能力そのもの(?)の「優劣」を遺伝子で計る試みになります。

その是非の議論はとりあえずここでは置いておいて、言いたいのは、「これってまんまガタカの世界だよね、SFじゃなくて現実にあるんだね」ということ。病気のリスクだけではなく、記憶力や勇気、音楽センス、絵画センス、運動能力などが幼少期の遺伝子検査である程度わかってしまう(検査の正確性の議論もそりゃ言いたいことは山ほどありますがまた別の機会に)ということです。今、この瞬間にも、赤ん坊や子供に対して、将来の音楽的な素養が、適正か、そうじゃないか、という評価が下されています。

※日本だと上海生物芯片有限公司の代理店何社かが民放で宣伝した際にかなり批判をあびて販売中止したところもいくつかあるようです。

 

ガタカ化2:アメリカの23andMeによるデザイナーベビー問題

23andMeの公式HP画像

ガタカを観直そうと思い立った理由の1つがこのデザイナーベビー報道が先月末くらいにあったからです。アメリカでおそらく最も有名な遺伝子検査検査&キット販売会社の1つである23andMe(Googleの創設者の妻が代表を努めていたり、Googleが出資していたり、離婚調停の噂だったり、離婚後はどうなるんだろう的な憶測でも有名な会社)が

生まれてくる子供の病気のリスクや容姿、芸術・スポーツなど適性や才能など、遺伝的な形質を予測する手法の特許を取得した。

というニュースです。この特許を取得したニュースが流れた後、倫理的な観点から様々な批判が殺到しました。批判とは、この記事に即していってしまえば「ガタカの世界を現実にする気満々かボケええええ!!!」というもの。

デザイナーベビーとはまさに、ガタカの世界の中で、ビンセントの兄であるアントンをはじめとする適性者たちが「デザイン」「カスタマイズ」されて生まれてきたのと同じだという解釈で良いでしょう。精子バンクとかで優秀な遺伝子を選ぶ際にもこの技術が使われるのではないか、と懸念されている。ガタカ化、既に問題になってる。

ちなみに、いくつか記事に目を通しましたが多くの批判は、健康と無関係な部分で遺伝子を操作することは倫理的に問題がある、としているのがすごくアメリカっぽいなあと個人的には思いました。逆にいえば、健康の部分ではヒトを遺伝子操作しても良いってことか?、って疑問に思う日本人は多いと思うんだけど、どうだろう?

映画の中でも、アントンの「デザイン」をしている最中に両親が「もちろん病気は困りますが、、ある程度は運命に任せるべきでは?」と弱々しく呟いていて、個人的にその場面が観直した際にすごく印象に残りました。すぐに医師に反論され、デザイナーベイビーに納得していたわけですが・・・。

 

【まとめ】 ガタカの足音がする

というわけで、現代とガタカの世界を少しだけ見てみたわけですが、最近日本でもYahooとジェネシスヘルスケアという検査会社がコラボして販売している遺伝子検査キットがあったりして、露出度が高かったので、このガタカを思い出した人は多かったのではないでしょうか。

ビンセントが生まれて、「この子は寿命は短くてもきっと何かやり遂げるわ」、と前向きだった両親が、弟のアントンを遺伝子操作(ガタカの世界の「普通のやり方」)で産もうと思い立ち、そして医師に説得されるまでの道筋も、上記の能力適性診断やデザインベイビーといったガタカの足音が聞こえてきた我々現代人の耳元で何かをリアルに訴えかけてきているように感じます。

 

神が曲げたものを誰が直し得よう? コヘレト7章 13節
【原文】Consider God’s handiwork: who can straighten what He hath made crooked? Ecclesiastes7:13
自然は人間の挑戦を望んでいる。 ウィラード・ゲイリン

【原文】I not only think that we will tamper with Mother Nature, I think Mother wants us to.    Willard Gaylin

という2つの印象的な言葉から始まり、

地球には居場所がないと思ってたのにーー去るのが辛かった。命は宇宙の塵の中から生まれたというーーボクは故郷へ帰るのかもしれない ビンセント

【原文】For someone who was never meant for this world, I must confess I’m suddenly having a hard time leaving it. Of course, they say every atom in our bodies was once part of a star. Maybe I’m not leaving… maybe I’m going home.

という言葉で終わる映画「ガタカ」。

NASAが選ぶ現実的なSF映画NO1という評価に個人的には納得しています(何様だ)。

 

引用が多くて恐縮ですが、もう1つだけ、印象的だった言葉、そして予告編の最後にも使われていた言葉を、ここまで来たらどうしても書いておきたい。

遺伝子に人の魂はない。

【原文】There is no gene for the human spirit.

僕はこの言葉を聞いて、批評家の小林秀雄をしばらく思い浮かべていました。

 

今後どうなっていくのかなんて、確かなことは僕のようなバカにはまだまだわかりかねますが、バイオビジネス界隈の様子を眺めてみると、どうやらガタカの世界の足音が聞こえてきているのは確かで、遺伝子との寄り添い方を、専門家だけではなく、私たち一般人も少しは考えていかなければいけない時期に来ていると思います。

 

【余談】

この映画が公開された当時、ボクは10歳とかそこら辺で、映画オタクだった親父はたぶんガタカも観ていたと思うのですが、映画を観た後、当時の僕をどんな気持ちで見ていたのかなーとか考えてしまいました。

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